
「心理的安全性」とは? 意味やメリットをわかりやすく解説
「心理的安全性って何?」
「心理的安全性でどんな効果があるの?」
今注目されている「心理的安全性」という言葉を知っているでしょうか。読んで字のごとく「心理状態の安全性が高いこと」という意味ではないので、誤解されることの多い用語です。組織や属する人にとってはとても重要な要素であるため、正しく理解した上で、考え方を導入することが求められます。
- 心理的安全性に関する基本的な知識がわかる
- 心理的安全性のメリットがわかる
- 心理的安全性の高め方や計測方法がわかる
この記事では、心理的安全性について、意味や注目されている背景、人・企業への効果などを詳しく解説します。高め方や注意点、計測方法もご紹介しますので、ぜひ組織づくりの参考にしてみてください。
心理的安全性とは
まずは、心理的安全性とは何かを押さえていきましょう。誤解されやすい言葉ですが、ポイントを押さえれば意味をしっかり理解できます。ここでは、意味に加え、提唱した専門家や企業なども詳しく解説します。
Google(グーグル)が確立した成功するチームの土台
心理的安全性を初めて提唱したのは、組織行動学の研究に取り組むハーバード大学教授・エイミー・エドモンソン氏です。さまざまな組織で調査を行った結果、心理的安全性を「このチーム内では、対人関係上のリスクをとったとしても安心できるという共通の思い」と定義しました。
定義をわかりやすく噛み砕くと、メンバー同士の会話でどのような発言をしたとしても、メンバーから嫌われたり、関係が壊れたりすることがなく、安心して自分の意見や考えを言える状態のことを言います。
病院において投薬量のミスに気づきながら黙認する、企業買収に疑問を持ちながらも指摘せず失敗に終わるなど、さまざまな事例で心理的安全性の重要性を提唱しました。
エドモンソン教授の研究を受けて、Google(グーグル)では「効果的なチームとは何か」の研究を開始し、エンジニアのチームや営業系のチームを追跡・調査しています。調査によって、「効果的なチーム」の要素として、以下の5つが確立されました。
- 心理的安全性
- 相互信頼
- 構造と明確さ
- 仕事の意味
- インパクト
要素の一つであるとともに、最も重要な要素と位置づけ、メンバーに気兼ねなく発言できる環境がチームをつくる基礎となると発表しています。
【参照】 Google re:Work「「効果的なチームとは何か」を知る」
心理的安全性が低い環境で見られる4つの不安
エドモンソン教授は、スピーチフォーラム「TED」にて、心理的安全性が低い状態で見られる4つの不安に言及しています。
- 無知だと思われる不安
- 無能だと思われる不安
- 邪魔をしていると思われる不安
- ネガティブだと思われる不安
チームで発言したときに、「そんなことも知らないのか」「そんな簡単なこともできないのか」「ミーティングが進まない」「後ろ向きな発言ばかりでやる気がなくなる」といったように思われないか不安になる環境は、心理的安全性が低いと述べています。
上記の不安があることによって、無知と思われない、邪魔をしないようにと発言・質問を控える、無能と思われないようにミスを隠す、ネガティブと捉えられないように否定的な意見を言わないといったことが起こる可能性が高いです。
その結果、事例でも紹介したように、ミスが見逃されたり、防ぐことができた失敗が起きたりするケースが出てきてしまいます。
なぜ心理的安全性が注目されているのか?
心理的安全性という言葉が知られたのは最近ですが、それまでにも概念自体は既にありました。気兼ねなく発言できるチームにしたい、情報交換を活発にしたいといった思いは、チーム状態によってはよくある悩みであり、マネジメントを行う上でつまずいた経験がある人も多いのではないでしょうか。
そんな心理的安全性が注目されたのは、上述したGoogle(グーグル)の研究結果が発表されたのがきっかけです。
離職率が高い、生産性が低い、アイディアがなかなか生まれないといった悩みがある中で、調査における「心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が 2 倍多い」という結果は、衝撃を与えるものでした。
生産性の高いチーム作りには心理的安全性が重要であることが広く知られ、国内外で注目されることになったのです。
【参照】 Google re:Work「「効果的なチームとは何か」を知る」
心理的安全性がもたらすヒト・企業へのメリット
組織の心理的安全性が高いことは、ヒトや企業に良い影響を与えます。ヒトへの効果と企業への効果に分けて、心理的安全性によるメリットを見ていきましょう。
ヒトへのメリット
ヒトへの主な効果は、以下の3つです。
- 責任感や関心が芽生えやすい
- パフォーマンスの向上を期待できる
- スムーズに情報交換できるようになる
自社の従業員にどのような効果を与えるのかをしっかり押さえていきましょう。
責任感や関心が芽生えやすい
心理的安全性が高いと、自分の意見を素直に発言でき、チームに積極的に関わることができます。
自分を尊重してもらえることによって、「自分がプロジェクトに貢献している」「もっと上手くいく方法がないか」などと、責任感が芽生えたり、関心を持ったりすることを期待できるのがメリットです。
また、「発言したらどう思われるだろうか」「失敗したら叱責されるかもしれない」といった心理的ストレスも軽減され、安定した精神状態で働くことができるでしょう。
パフォーマンスの向上を期待できる
心理的安全性が低い環境では、能力やアイディアのあるメンバーも発言を控えるなど、十分に資質を発揮できていないケースがあります。
心理的安全性が改善されると、意見やアイディアを発言しやすくなり、メンバーが持つスキルを使える環境になるのがポイントです。
意見が尊重されることでやりがいを感じたり、チームに参画できる喜びや責任感を覚えたりして、モチベーション高く働ける場合もあり、メンバーそれぞれのパフォーマンスの向上を期待できます。
スムーズに情報交換できるようになる
心理的安全性が高い職場では、不安なく発言できるので、情報交換がスムーズになります。成功体験はもちろん、失敗や課題も話題になりやすく、メンバーはさまざまな情報を共有することが可能です。
他のメンバーの成功体験を自分の仕事に生かしたり、メンバーの指摘から課題や問題に気づいて早めに対処できたりするので、チーム全体の成果にもつながっていきます。
企業へのメリット
企業への主な効果は、以下の3つです。
- イノベーションが生まれる職場になる
- さまざまな考え・価値観を持った人材が集まりやすくなる
- 人材の定着率が高まりやすい
人材の採用や定着などにもメリットがあるので、しっかりチェックしていきましょう。
イノベーションが生まれる職場になる
メンバーが活発に情報交換できる職場では、イノベーションが生まれやすくなります。従業員それぞれが持つアイディアや意見が引き出され、それまでになかった新たな考え方を発見できるでしょう。
新しいプロジェクトやプロダクトを考案できることは、企業が新たな一歩を踏み出すきっかけにもなります。価値のあるイノベーションが生まれれば、業績アップも期待できるでしょう。
さまざまな考え・価値観を持った人材が集まりやすくなる
風通しの良い企業であることが広く知られると、自分の考えやアイディアを発揮したいと考えるさまざまな人材が集まりやすくなります。
アイディアを形にしたい、考え方や価値観を発揮して大きなプロジェクトに携わりたいといった人材が集まれば、さらに情報交換や議論が活発になるでしょう。
心理的安全性が高いからこそ、多様な人材が活躍でき、メンバーそれぞれはもちろん、企業も大きく成長できるはずです。
人材の定着率が高まりやすい
心理的安全性の高い職場では、やりがいを感じたり、モチベーション高く取り組めたりするメンバーが多くなります。
「会社のために長く働きたい」「会社とともに成長したい」といった思いが芽生え、企業へのエンゲージメントの向上を期待できます。その結果、離職率の低減を実現し、人材が定着しやすくなるのです。
個性豊かなメンバーが定着することによって、新たなメンバーの教育がスムーズになったり、チーム力が安定したりするなどの効果も期待できます。
心理的安全性の高め方と注意点
心理的安全性が高いことによるメリットは多くありますが、どのように高めればよいのでしょうか。また、その過程で注意すべきポイントもいくつかあります。ここでは、心理的安全性の高め方と注意点を解説しますので、社内での取り組みに生かしましょう。
心理的安全性の高め方
心理的安全性を高めるためには、以下のような方法があります。
- 発言の機会を平等に与える
- 協力を重視した職場環境を作る
- ポジティブな受け止め方を心がける
- 評価方法を見直す
- メンバー同士が交流する機会を設ける
安心して発言できる環境でも、実際には一部の人が発言しているケースもあります。メンバー全員が気兼ねなく発言できるためには、発言の機会を平等に与えることが大切です。新人やキャリアの短い社員などにも発言してもらうことによって、誰でも発言できるチームになるでしょう。
メンバーへの意識づけも大切な要素です。競争ではなく協力を重視したり、ポジティブな受け止め方を心がけたりすることによって、競争によるプレッシャーや失敗を責めることなどが減り、信頼関係のあるチームの構築を目指せます。
また、評価方法も心理的安全性の向上に関わるポイントです。成果主義の場合、ミスを恐れたり、他のメンバーが気になったりして、職場の安心感が減ってしまいます。チーム単位での評価やランク付けをしない「ノーレイティング」などの評価方法に変更するのも方法のひとつです。
最後に、心理的安全性の土台となる信頼関係を作るために、メンバー同士が交流する機会を設けるのも良いでしょう。食事会や飲み会などでリラックスした状態でコミュニケーションを取ることによって、信頼関係が築かれて、職場の心理的安全性につながる場合があります。
心理的安全性向上を目指す上での注意点
心理的安全性向上を目指す上で注意したいのは、馴れ合いとは違うということです。メンバーが持つ職場への印象はさまざまで、リーダーが心理的安全性が高いと思っていても、メンバーにとっては仲が良くて楽な職場と思われているかもしれません。
何を言っても許される、失敗しても大丈夫といった馴れ合いの職場では、責任感や意欲は芽生えにくく、生産性の向上は望めないでしょう。
そうならないためには、リーダーが中心となって、時にはメリハリをつけて指示や注意を行ったり、メンバーとの面談で目標や進捗を管理したりすることが大切です。
心理的安全性の計測方法
心理的安全性が高まっているのか、取り組みを始める前はどのくらいなのかを知るためには、現状を計測することが大切です。2つの計測方法を参考にして、自社の心理的安全性をチェックしましょう。
「7つの質問」で計測する
エドモンソン教授は、心理的安全性を7つの質問で計測する方法を提唱しました。設問に対して、「強くそう思う」「そう思う」「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「そう思わない」で回答し、度合いを見極めます。以下は、7つの質問の原文と日本語訳です。
- チームの中でミスをすると、たいてい非難される。
(If you make a mistake on this team, it is often held against you.) - チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
(Members of this team are able to bring up problems and tough issues.) - チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある。
(People on this team sometimes reject others for being different.) - チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
(It is safe to take a risk on this team.) - チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい。
(It is difficult to ask other members of this team for help.) - チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない。
(No one on this team would deliberately act in a way that undermines my efforts.) - チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。
(Working with members of this team, my unique skills and talents are valued and utilized.)
1、3、5と2、4、6、7がセットとなっています。1、3、5は「そう思わない」に近く、度合いが低いほど心理的安全性が高いです。一方、2、4、6、7は「強くそう思う」が多く、度合いが高いほど心理的安全性が高いと判断されます。
非難される機会が少なく、チームメンバーの風通しが良いほど心理的安全性が高い環境であり、生産性を期待できるチームと言えるでしょう。
【参照】 Google re:Work「「効果的なチームとは何か」を知る」
「3つのサイン」が見られるか確認する
心理的安全性が高い職場には、以下の3つのサインが見られるということも、エドモンソン教授は提唱しています。
- ポジティブな発言が多い
- ミスや問題についても話す機会が多い
- 職場に笑いとユーモアがある
困難な状況でも前向きに捉え、ポジティブな発言が交わされている、成功以外の話も話題になる、笑いとユーモアで職場が明るいといった場合は、心理的安全性が高いケースが多いでしょう。
チームメンバーの会話や雰囲気などを観察し、上記のサインが見られるか観察すると、心理的安全性の高低を確認できるはずです。