ビジネスにも活用可能なメタ認知とは?
ビジネスにおいて、自ら成長のヒントを見つけるため、自分の長所や短所を見極めるなど自分自身を知ることはとても大切です。とはいっても、自分に対する認識は偏ることが多く、客観視することは簡単ではありません。
自分自身を客観視することを「メタ認知」と呼び、ビジネスでも重要な概念です。この記事では、メタ認知の定義、その能力が高い人の特徴、デメリット、トレーニング方法まで詳しく解説します。
メタ認知とは?
メタ認知とは、考える・記憶する・判断するといった認知行動を客観的に捉えることです。人間は常に認知を行っていますが、その行動自体を客観視するには意識的に行わなければいけません。
例えば、自分が発言する際、メタ認知を行っていないと思ったままに言葉を発することになります。メタ認知が働いていると、言動は正しいか、その場に合っているかなどを客観的に判断し、適切に調整することが可能です。
メタ認知が初めて生まれたのは、ソクラテスによる「無知の知」の提唱までさかのぼります。これは「知らないということを知っている」という考え方で、自分の認知を理解していると捉えると、メタ認知と言うことができるのではないでしょうか。
メタ認知が本格的に提唱されたのは1970年代で、ジョン・H・フラベルが「メタ記憶」という言葉を使って研究をスタートさせました。心理学の概念として教育や脳科学などに用いられていましたが、ビジネスシーンにおいても重要と考えられるようになっています。
「メタ認知的知識」と「メタ認知的技能」
メタ認知は、メタ認知的知識、メタ認知的技能という2つに分けることができます。メタ認知的知識とは、自分自身について認知している知識のことです。大胆な決断は苦手だが堅実な判断ができる、終わったことをつい引きずってしまうなど、自分の長所や短所を知識として理解できていることをメタ認知的知識と言います。
一方、メタ認知的技能は、メタ認知的知識を活用して、自分自身を振り返ったり、対策を取ったりするなど行動に移すことです。過去と現在の自分を比較したり、比較した上で改善策に取り組んだりできると、メタ認知的技能を発揮していると言えます。
どちらが重要ということではなく、メタ認知的知識とメタ認知的技能のつながりが大切です。メタ認知的知識があるだけでは、ただ自分自身を知っているだけです。メタ認知的技能を発揮するには、前提としてメタ認知的知識が必要です。メタ認知的知識をしっかり得て、メタ認知的技能に生かしましょう。
メタ認知が高い人の特徴
メタ認知能力が高い人には、以下のような特徴があります。
- 自分を含めた状況を客観視できる
- 自己分析が上手い
- 冷静な判断ができる
- 柔軟に対応できる
- 協調性が高い
- モチベーションが高い
特徴を理解して、メタ認知の向上を目指してみましょう。
自分を含めた状況を客観視できる
メタ認知能力が高い人は、周囲の状況を俯瞰して見ることができます。例えば、チームで不和があったときに、メタ認知が不得意だと感情に任せてしまったり、偏った思い込みをしたりしてしまいがちです。
メタ認知ができていると、なぜ不和が起きたのか、どうすれば状況を改善できるのかを状況を踏まえて考えることができます。問題が起きていなくても、原因になりそうなことにいち早く気づく、状況が悪くならないように配慮するなど、先回りして対応することが可能です。
自己分析が上手い
メタ認知能力が高い人はとりわけ自己分析が上手です。自分の優れているところだけではなく、短所も理解できている傾向があります。
短所を認めた上で周りに伝えるか隠すかは人によって違うものの、「この仕事は自分よりもAさんの方が得意だ」といった適切な判断ができる人が多いでしょう。
冷静な判断ができる
何らかの判断をするときに、メタ認知に優れていると冷静に判断しやすくなります。そのときの状況や判断の内容、目的などを客観視することで、適切な判断が可能です。
メタ認知能力が低いと、感情や直感、勢いなどで場当たり的な判断をしてしまうケースがあります。結果が出たとしても再現性は低く、同じような判断を繰り返すと、将来的に失敗する可能性が高いです。
柔軟に対応できる
ビジネスでは、様々なタスクがあり、色々な人間と関わるので、状況に応じて対応する必要があります。メタ認知能力が高い人は、状況を俯瞰することができるため、順応する能力も高いです。
プロセスが変わったときに注意点をいち早く見つける、担当者や取引先が変わったときにより良い対応を考える、ミスが起きたときに原因を考え対策をするなど、様々な場面で柔軟な対応ができます。
協調性が高い
メタ認知能力が高いと、自分自身だけではなく、相手の行動や言動についても考えることができます。どのような意図があるのか、どのような気持ちなのかを予想することによって、互いにとって気持ちの良い言葉や対応を選べるのが特徴です。
環境や関わる人間に影響されずに相手の気持ちを考えられるので、様々な場面で協調性を発揮できる人が多いと言えるのではないでしょうか。
モチベーションが高い
メタ認知は、現在の状況以外にも、将来的なビジョンを考える際にも役立ちます。目標に対して、今の自分に何が足りないのか、どうすれば成長できるかを考えるなど、モチベーションが高いのもメタ認知能力に優れている人の特徴です。
日々の仕事においても、上手くいかないことやミスで一喜一憂することはあまりないでしょう。ミスが起きた理由や次にそうならないための対策に頭を働かせるため、やる気を失わずに取り組むことができます。
メタ認知能力のデメリット
メタ認知能力が高いことによるメリットは多いものの、デメリットもいくつかあります。
- 思考に体力を使ってしまう
- 一人で抱え込んでしまいやすい
- プレッシャーを感じやすい
デメリットをあらかじめ知っておくことで、適切な対策を講じることが可能です。
思考に体力を使ってしまう
メタ認知は良くも悪くも思考する機会が多くなります。状況を俯瞰したり、自己分析したり、解決策を探したりするのは良いことですが、思考にエネルギーを消費しすぎてしまうのはデメリットです。
思考による疲労で行動の質が下がったり、思考することでエネルギーを使い果たしてしまったりするケースがあります。メタ認知のバランスを考え、思考を行動につなげられるようにエネルギーの効率を意識しましょう。
一人で抱え込んでしまいやすい
メタ認知を意識することで、自分自身の短所や組織の問題点などが見えてきます。より多くの状況や悪い部分も把握できるものの、それらを一人で抱え込みやすい点には注意が必要です。
頭の中でぐるぐる考えていると、不安な気持ちが多くなったり、かえって混乱したりして、メンタル面に負担がかかってしまいます。メタ認知も重要ですが、周りの人に考えていることを話すことも大切です。考えを口に出したり、他の人の意見を聞いたりすることで、思考がまとまり、新たなアイデアが思い浮かぶこともあります。
プレッシャーを感じやすい
責任感が強いと、メタ認知で自分への意識が強くなり、プレッシャーを感じやすくなる場合があります。良くない状況や問題が見えている分、自分がどうにかしなくてはいけないという思いが大きくなる可能性があります。
プレッシャーを力に変えられることもあれば、プレッシャーで本来の能力を発揮できないこともあるでしょう。周りの協力も得ること、一人で抱え込まないことのほか、そのような傾向がある人に対して周りの人がフォローすることも大切です。
メタ認知を高めるためのトレーニング方法
メタ認知を高めるためには、ただ意識するだけではなく、効果的なトレーニングに取り組むことが大切です。
ここでは、5つのトレーニング方法を解説していきます。
- モニタリング
- コントロール
- フリーライディング
- 瞑想
- コーチング
モニタリング
モニタリングは、自分を客観的に観察する能力を鍛えるトレーニングです。「メタ認知を実践しよう」と言われても、いきなりできるものではありません。そこで、生活や仕事などのできごとに対して、行動の理由や状況などを整理・分析します。
自分の行動をモニタリングするクセを付けることで、普段から状況を客観視する習慣が身に付くでしょう。モニタリングする項目は、状況、思考、気持ち、行動、身体の反応という5つがおすすめです。
コントロール
セルフモニタリングができていても、見つかった課題や状況に対して気持ちをコントロールできなければ意味がありません。
例えば、接客業で忙しさのあまり、つい対応が雑になってしまったとします。目の前のお客様より自分の仕事を優先してしまった、お客様第一で接客をすべきといったメタ認知に対して、接客を第一にするようにマインドを変え、忙しくて丁寧な接客を心がけるのがコントロールです。
コントロールの内容は、状況によって異なります。メタ認知に対するコントロール方法を考え、自分に合った方法に取り組んでいきましょう。
フリーライティング
フリーライティングは、ライティングセラピーと呼ばれることもある方法です。頭の中で考えていることをまっさらな紙や日記などに書いて、思考を可視化していきます。
頭の中だけでは整理できなかったことも、文字にすることで認知しやすくなるのが特徴です。思考を可視化するという面では、SNSで発信する、ブログを更新するなどの取り組みも効果があります。可視化に加えて、他の人から反応をもらえることもあり、自分の思考にどのような意見を持つかという面からもモニタリング能力を高めることが可能です。
瞑想
モニタリングやフリーライティングなどのトレーニングをする際に、思考に集中できないと効果的な訓練は難しくなります。
そこでおすすめしたいのが瞑想です。リラックスできる姿勢をとり、ゆっくり呼吸しながら自分自身に集中していきます。呼吸や温度などに意識を向けることで、雑念を振り払い、集中力を高めることが可能です。研ぎ澄まされた精神がモニタリングの質を上げ、メタ認知能力の向上を期待できます。
コーチング
自分自身の長所や短所、周囲の状況に気を配るのは、簡単なことではありません。自分だけで取り組むのが難しい場合は、コーチングを受けるのがおすすめです。
コーチングは認知療法とも言われ、第三者から思考のクセなどに気づくことができます。自分自身を俯瞰するきっかけが生まれ、コツがわかれば、モニタリングやフリーライティングなどセルフトレーニングに取り組みやすくなります。
第三者に協力してもらう方法として、グループワークも効果的です。他の人から見た自分、周りの人の考え方はメタ認知を高めるヒントになります。
まとめ
メタ認知とは、自分自身について客観視できることです。認知を行動につなげることで、さらなる成長を実現したり、問題への対策に取り組んだりできます。
一方で、メタ認知に頼りすぎると、思考のしすぎで疲弊したり、一人で抱え込んだりする場合があるので、周りを頼る、周りがフォローすることも大切です。メタ認知能力が高い人の特徴やトレーニング方法を参考にして、能力を鍛えてみてはいかがでしょうか。