組織が活性化する「ジョブ・クラフティング」とは?
従業員のやる気ややりがいを引き出して、組織を活性化したいと考えている企業が多いのではないでしょうか。モチベーションややりがい搾取などを改善し、組織の成果につなげる概念をジョブ・クラフティングと言います。
この記事では、ジョブ・クラフティングの定義や実施する目的、実施する際の注意点を解説します。ジョブ・クラフティングを活用した組織を活性化するポイントもぜひ参考にしてください。
「ジョブ・クラフティング」の定義
ジョブ・クラフティングを直訳すると、仕事を構築する・作るといった意味になります。ビジネス用語では、一から仕事を生み出すという意味合いではなく、仕事を主体的に捉え直すことを指す考え方です。
会社の方針に従って働く、上司の言われたことをするといった受け身の姿勢ではモチベーションや生産性が上がらないため、前向きに主体的な行動を起こせるように考え方や気持ちを変えていくのがジョブ・クラフティングです。
ジョブ・クラフティングは、アメリカのイェール大学ビジネススクール教授であるエイミー・レズネスキーとミシガン大学名誉教授であるジェーン・E・ダットンが中心となって提唱しました。
また、経営学者であるピーター・ドラッカーの理論もジョブ・クラフティングを理解するために用いられています。「3人の石工」という例において、「何をしているか」を石工に聞いたところ、回答はそれぞれです。3人目の石工は「人々がお祈りをするための大聖堂を造っている」と答え、目的を持って主体的に取り組んでいる姿勢を読み取ることができ、ジョブ・クラフティングの狙いを表現しています。
では、ジョブ・クラフティングが注目されている理由やジョブ・デザインとの違い、メリットを順に見ていきましょう。
ジョブ・クラフティングが注目されている理由
ジョブ・クラフティングが注目されている理由のひとつは、顧客ニーズの多様化や複雑化、トレンドの流動化です。様々なテクノロジーや商品・サービスが次々に登場する現代では、顧客ニーズも一定ではなく、多様なニーズが複雑に存在するようになっています。トレンドの移り変わりも早く、ビジネスにはスピード感が求められているのです。
従来のトップダウン方式のビジネスの場合、意思決定に時間がかかりやすく、ニーズや変化に対応するのが難しくなっています。経営層や上司からの指示に従っているだけでは成果は期待できず、従業員が主体的に動き、スピーディーな意思決定ができるように、ジョブ・クラフティングの重要性が高まっています。
また、働き方の多様化もジョブ・クラフティングが注目されている理由です。年功序列や終身雇用が崩壊しつつある中で、与えられた仕事をこなすよりもやりがいを求める人材も増えています。受け身の仕事をせざるを得ない環境では充実感を得られず、モチベーション低下や退職などを招いてしまうでしょう。
時代の変化に関わらず、魅力的な商品・サービスを生み出すためには熱意も必要です。自分の思いや工夫などを生かした熱いものをつくるには、主体性が欠かせません。ジョブ・クラフティングによって従業員の意識を高め、熱意を引き出す工夫が必要になってきていると言えるでしょう。
ジョブ・デザインとの違い
ジョブ・クラフティングと似たビジネス用語に、ジョブ・デザインという考え方があります。ジョブ・デザインは日本語で「職務設計理論」と表現されるもので、従業員がやりがいやモチベーションを持って働けるように、経営者が仕事の設計や割り振りを見直すことです。
一方、ジョブ・クラフティングは、従業員自身が仕事の捉え方や考え方を見直し、主体的に捉え直す手法です。
両者では、経営者・従業員という主体、仕事の設計・仕事の捉え方という見直す対象が異なります。仕事に対するモチベーションややりがいを改善するという点では共通していますが、アプローチの仕方や主体が異なることを覚えておきましょう。
ジョブ・クラフティングのメリット
ジョブ・クラフティングを実施することによって、以下のようなメリットを期待できます。
- 社員が主体的に行動するようになる
- 人材が成長しやすくなる
- アイデアが生まれやすくなる
- 従業員の満足度、エンゲージメントが高まる
仕事への捉え方が変化することによって、従業員の姿勢が主体的・自主的に変わる可能性があります。主体的に行動できるようになると、モチベーションが上がったり、やりがいを感じやすくなったりして、成果や定着率などの向上を実現可能です。
主体的な取り組みの中で、役割を果たすために努力したり、適性のある部署に配置されたりすることで、成長スピードが早くなっていきます。専門性を高める人材やリーダーシップを発揮する人材などが現れれば、個性を生かした強い組織になっていくでしょう。
受け身の状態は仕事をこなすことに終始しがちですが、主体性があると従業員が自ら考えながら取り組めるようになります。創意工夫が認められるため、独創的なアイデアや発想が生まれやすく、革新的な商品・サービスが生まれるかもしれません。
また、やりがいを感じ、やる気を持って働けることは、満足度やエンゲージメントの向上につながります。会社への感謝や帰属意識などが芽生え、長く活躍してくれる可能性が高まるのもメリットです。
「ジョブ・クラフティング」を実施する目的
ここまで定義を解説しましたが、どのような目的でジョブ・クラフティングを行うのでしょうか。主な実施目的は、以下の3つです。
- 仕事の意義を構築し直す
- 業務の捉え方を変化させる
- 人間関係を改善する
目的と自社の課題が一致する場合は、ジョブ・クラフティングを実施する必要があるでしょう。
仕事の意義を構築し直す
ジョブ・クラフティングの1つ目の目的は、「なぜ仕事をするのか」といった仕事の意義を再定義することです。意義を見失っている状態だと、迷いを抱えたままぼんやりと働いたり、モチベーションが下がったりするケースがあります。
ジョブ・クラフティングによって、「たくさんの人が笑顔になる商品をつくりたい」「新しいものを世に送り出したい」など、仕事をする目的や意義を見つけることが可能です。仕事に取り組む目標が見つかり、前向きに働けるようになるでしょう。
業務の捉え方を変化させる
ジョブ・クラフティングでは、従業員の状態を受け身で仕事をしていることを前提にしています。受け身の状態では、仕事を単なる作業や上司に頼まれたことなどと捉えている場合が多いです。そのような捉え方では、ただ仕事をこなすだけで、新しい発想や改善点などは生まれてきません。
ジョブ・クラフティングの2つ目の目的は、業務の捉え方を変化させることです。作業または頼まれたことと捉えるのではなく、何のための仕事なのかを考え、取り組み方を変えていきます。そうすることによって、業務の目的のために改善すべきポイントや創意工夫などが生まれやすくなり、主体的に取り組めるようになります。
人間関係を改善する
仕事において他者の存在は必要不可欠であり、成果を出したり、気持ちよく働いたりするためには、円滑な人間関係を構築する必要があります。
ジョブ・クラフティングは人間関係にも働きかける手法で、3つ目の目的は人間関係への意識を改善することです。顧客や上司、同僚、部下などを仕事上で付き合いのある人と認識するのではなく、顧客を「自社の商品を活用して仕事や人生を豊かにしてくれる存在」、上司や同僚、部下を「同じ目標に向かって取り組む仲間」などと捉えることによって、人との関わり方が変わっていきます。
円滑な人間関係が構築されれば、周りの人から新たなアイデアをもらったり、苦しい状況で助けられたりするなど、さらに豊かな人間関係やチームワークが生まれるでしょう。
「ジョブ・クラフティング」で組織を活性化させるポイント
ジョブ・クラフティングは従業員一人ひとりに対するものですが、上手く活用することで組織の活性化につながります。
組織活性化にジョブ・クラフティングを活用する際のポイントは、3つです。
- 業務を見つめなおす機会をまず作る
- 主体的に行動できる環境か
- 上司が率先して反応や行動に気を付ける
ポイントを理解して、組織力向上のためにジョブ・クラフティングを実践しましょう。
業務を見つめなおす機会をまず作る
ジョブ・クラフティングを実施するとはいっても、業務や仕事について考える時間や機会がなければ、思うような効果を期待できません。
日常的な業務が立て込んでいる状態では実施しにくいので、ジョブ・クラフティングにだけ集中できる時間を確保しましょう。じっくりと現在の考え方や理想の捉え方などを整理すれば、従業員の姿勢が変化していくはずです。
主体的に行動できる環境か
従業員のアイデアを上司が受け入れない、上司から仕事を押し付けられることが多いという環境では、ジョブ・クラフティングは成功しないでしょう。
主体性や自主性が認められる環境であることが、組織を活性化することにつながります。ジョブ・クラフティング実施にあたって、上司も考え方を変え、部下の主体性を尊重することが大切です。
上司が率先して反応や行動に気を付ける
「ジョブ・クラフティングで主体的に行動しよう!」と掲げていても、上司が実践できていなければ、組織に浸透させることは難しいです。
上司自身がジョブ・クラフティングを実践し、生き生きと働いている姿を見せることが、部下へのメッセージになります。
部下の考え方やアイデアを尊重することも意思表示のひとつです。まずはポジティブに受け止め、主体性が認められていることを伝えた上で、改善点を指摘すると良いでしょう。
「ジョブ・クラフティング」を企業が実施する際の注意点
ジョブ・クラフティングを実施する際の注意点は、主に3つあります。
- 属人化を引き起こしやすい
- チームワークが求められる仕事には向かない
- 「やりがい搾取」に気を付ける
注意点をしっかり押さえて、ジョブ・クラフティングを実施しましょう。
属人化を引き起こしやすい
主体性や自分らしさを尊重しすぎると、仕事の属人化を起こしやすくなります。属人化とは、「この仕事はAさんにしかできない」という状態で、Aさんが異動や退職などで離れることになったときに問題が起きやすいです。
従業員それぞれが他の仕事を知らないというブラックボックス化を起こさないように、主体性を認めつつも、情報共有や標準化が必要になります。
チームワークが求められる仕事には向かない
ジョブ・クラフティングは、従業員の主体的な行動を求めているため、チームワークが必要な仕事にはあまり向いていません。
個性を認めすぎて意見や方針がまとまらないと、プロジェクトの進捗や成果に影響が出てしまいます。仕事の性質を見極めた上で、ジョブ・クラフティングの実施を検討しましょう。
「やりがい搾取」に気を付ける
ジョブ・クラフティングの意義を見誤ると、「やりがい搾取」になってしまう場合があります。やりがい搾取とは、やりがいを盾に厳しい労働条件を迫ることです。「主体性を認めるから長時間労働は受け入れるべき」といった考え方では、従業員はついてきません。
ジョブ・クラフティングの主体は、従業員自身です。従業員自ら仕事の意義や自分らしさを見出し、やりがいを見つけられるように働きかける必要があります。
まとめ
ジョブ・クラフティングとは、仕事への考え方や姿勢を見直し、主体性ややりがいを見つける手法です。主体的な行動や成長、満足度の向上などにつながり、独創的なアイデアや創意工夫も生まれやすくなります。
ジョブ・クラフティングを組織に落とし込むためには、業務を見つめ直す機会を意図的につくったり、上司が率先して取り組んだりすることが大切です。属人化ややりがい搾取などの注意点に気を付けて、ジョブ・クラフティングを実践しましょう。